知床四季のフォトエッセイ
森の掟

知床四季のフォトエッセイ
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県民性 9月
真夏の夜の夢 8月
近況 6月
旅立ち 5月
調和 4月
同窓会 2月
世界で一つだけの花 1月
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森の掟
No,26 2004年11月号 著者:村石孝枝
 この頃 熊を見たという声を ひんぱんに聞く。冬眠前に脂の乗った 鮭をお腹いっぱい食べて 長い冬を乗り切ろうとするのは 人間も動物も同じだ。  だからこの時期 産卵の為に 川に上る鮭を狩りしている熊を あっちこっちの川で見かける。  よく木彫りの熊の 代表的なポーズに 鮭を口にくわえている姿があるが そんな場面を「生」で見られるのも 知床ならではの風景だ。  私の仕事仲間には 鹿角を加工して 作品を作っている職人さんがいる。 その人の熊の話はすごい!  鹿角職人は 角が材料なので この角拾いがある意味 仕事の半分を 占めている。  よく奈良公園の鹿が 角を切られている映像を テレビなどで見かけるが あれは角が観光客に あぶないという理由で切っている。  本来は 1年に1度 春先に自然に角は落ちる。 この鹿角拾いに行くと かなりの確立で熊に出会うそうだ。  雄鹿が角を落とすということは やはり武器をなくすようなものだから 人目につかない 山の奥深いところで落とす。  実は そんな場所は 熊の生活圏なので 本来人間は 足を踏み入れられないようなところだという。  そこでは 熊を見かけるのは普通だが けっして目を合わせては いけないのだそうだ。  見つめ合うという行動は 熊にとっては攻撃を意味するからだ。  また 熊は食べきれない程の獲物があると 土の中に埋めておく習性があるらしい。 その獲物が 雄鹿だった場合は 鹿の胴体は 土の中に埋まっていて見えないが 角は地上に出ているので 一見角だけが落ちているように見える。  これを 角拾いの人が 気づかずに近づくと とても危険だという。 熊は 大切な自分の食料を横取りせれると見て 仕返しをしてくるそうだ。  突然に現れて脅かしたり 地面が割れるのではないかと 思う程の 地響きで近づいてきて 歯をガチガチと鳴らすというから オソロシイ。  そんな時 彼がとる行動はひたすらに 「私は何もしません! ただ仕事の為に鹿角を拾いに来ただけです。 あなたの領域をけっして荒らしたりしません。」と 熊に強いメッセージを 送るそうだ。  もちろん けっして目を合わせたりしない。 そうして静かに じっと やり過ごすと 熊は急に足音を立てずに すーと 森に消えるというから驚きだ。  そして次に そこで同じ熊に合っても 今度は見て見ないふりをして 大目に 見てくれるというのだから これはもう 人間関係と同じだ。 「まるで童話だね!」というと 「だけど熊は猛獣だから 何があっても おかしくないよ。どんな時でも 謙虚な気持ちを持って 山に入らないと とんでもないことになるよ。子供の頃から山には よく行くけど 年々その 気持ちは強くなってきたなあ。」  単なる仕事仲間の彼が 今日はとても偉く見えた。
 
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写真
1枚目:ヒグマ知床10月

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「知床四季のエッセイ」著作 村石孝枝
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